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大阪地方裁判所 昭和48年(行ウ)86号 判決

大阪市北区老松町二丁目二三番地の三

原告

株式会社双葉

右代表者代表取締役

嶋本利彦

右訴訟代理人弁護士

花村哲男

大阪市北区南扇町一六番地

被告

北税務署長

丸谷哲郎

右指定代理人

高須要子

森江将介

奥山茂樹

杉山幸雄

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和四六年三月三一日付でした、原告の昭和四四年六月一日から昭和四五年五月三一日までの事業年度分の法人税についての更正処分及び重加算税賦課決定処分(いずれも国税不服審判所長の裁決により一部取消されたのちのもの)を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は金融業等を営む株式会社である。原告の昭和四四年六月一日から昭和四五年五月三一日までの事業年度(以下本件事業年度という。)分の法人税につき、原告のした確定申告、修正申告、被告のした更生処分及び重加算税賦課決定処分、訴外国税不服審判所長のした裁決等の経緯及び内容は、別紙1記載の通りである。

2  被告のした更正処分及び重加算税賦加決定処分(別紙1〈4〉欄記載のもの。ただし、いずれも裁決により取消されたのちのもの。以下本件各処分という。)は、原告の所得金額を過大に認定した違法がある。

3  よつて、原告は本件各処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の主張は争う。

三  被告の主張

1  所得金額及び隠ぺい、仮装部分

(一) 原告の本件事業年度における所得金額及びその内訳は、別紙2被告主張額欄記載のとおりである。

(二) 原告は、所得金額八六二四万三七二六円のうち一六二一万一四五一円(修正申告額と未納事業税の減額分の合計額)をこえる部分の法人税につき、事実を隠べい又は仮装し右隠ぺい又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したものである。

2  綿野潔関係

(一) 収入利息

(1) 原告は訴外綿野潔に対し、昭和四二年三月二八日に四六〇〇万円、同年一〇月四日に四〇〇万円をそれぞれ貸付けた。

(2) 原告は、昭和四三年六月二六日、右(1)の元本及びこれに対する昭和四四年七月三日までの利息の合計額一億〇七九七万円の支払のために、右綿野から約束手形(金額一億〇七九七万円、支払期日昭和四四年七月三日)の交付を受けたが、右手形は右支払期日に支払われなかつた。

(3) 原告は、右綿野から、右元利金一億〇七九七万円の支払に代えて、昭和四四年七月に別紙3一、二の物件の、同年一〇月に同3三の物件の各所有権を取得した。

(4) 右別紙3一ないし三の物件(以下綿野関係物件という。)の時価額は、原告自ら一億六五〇〇万円として貸借対照表の資産の部に計上していることから明らかなように、原告が右綿野から右各物件に入居している商人が差入れた権利金を引継いでいないことを考慮しても、一億六五〇〇万円以上である。

(5) (1)の貸付元本に対する未収利息のうち、先行事業年度において課税済の金額は、左のとおりである。

昭和四二年六月一日から同四三年五月三一日までの事業年度(以下四三事業年度といい、他の事業年度についても同様に略称する。)

七三六万三八三六円

四四事業年度 七五〇万円

合計 一四八六万三八三六円

(6) よつて、(2)の元利金一億〇七九七万円から、(1)の元本五〇〇〇万円及び(5)の課税済金額一四八六万三八三六円を差引いた残額四三一〇万六一六四円は、本件事業年度における収入利息である。

(二) 貸倒損失の否認

(1) 原告は、本件事業年度における所得金額の計算上、綿野潔に対する貸付元本一五九八万九三六〇円及び未収利息六一二万一六二八円の合計額二二一一万〇九八八円を貸倒損失として損金に算入した。

(2) しかし、前記(一)記載のとおり、原告は、本件事業年度において同人に対する元利金全額の支払を受けているから、被告は右貸倒損失の損金算入を否認する。

(三) 重加算税

原告は、前記(一)記載のとおり、綿野潔から元利金全額の支払を受けながら、被告部下署員に提示した帳簿(確定申告書及び確定決算報告書(乙第二号証)の作成の基礎となつたもの)にはその受領額の記載を全く欠き、さらには綿野に対する貸付元本一五九八万九三六〇円及び未収利息六一二万一六二八円を回収不能として債権放棄したごとく仮装経理をし、右隠べい又は仮装したところに基づき、被告に対し確定申告書を提出したものである。

3  奥村土地株式会社関係

(一) 未収利息

(1) 原告は訴外奥村土地株式会社(以下奥村土地という。)に対し、左のとおり貸付を行つた。

昭和四二年一〇月二五日 一一〇〇万円

同年一一月一日 一〇〇〇万円

同年一一月二一日 二〇〇〇万円

同年一一月二九日 六〇〇万円

同年一二月二六日 一〇〇〇万円

昭和四三年一月二三日 一八〇万円

同年四月一一日 二〇〇万円

同年四月二六日 五〇〇万円

同年五月一一日 二〇〇万円

(2) 右(1)の元本に対する約定利息は年一割五分以上であるところ、利息制限法一条一項所定の年一割五分の割合による利息金一〇一七万円は、本件事業年度における益金の額に算入すべきである。

(二) 重加算税

原告は、前記(一)(1)の貸付金の支払のために、奥村土地から貸付金の弁済期日を支払期日とした同社振出の約束手形を受領し、支払期日が到来するごとに新しく書替えた手形(支払期日及び手形金額を更新したもの。手形金額は、貸付元本に貸付日から弁済期日までの利息を加えたもの。)を受領していたから、貸付金債権及びその利息債権の存在を知つていたにもかかわらず、被告部下署員に提出した帳簿に右事実を全く記載せず、右隠べい又は仮装したところに基づき、被告に対し確定申告書を提出したものである。

四  被告の主張に対する原告の認否

1  被告の主張1(一)の事実に対する原告の認否は、別紙2原告の認否欄記載のとおりである。同1(二)の主張は争う。

2  同2(一)(1)ないし(3)、(5)の事実は認め、同(4)の事実は争う。同2(二)(2)の事実は争う。同2(三)の事実は争う。

3  同3(一)(1)、(2)(ただし、約定利息が年一割五分以上である点)の事実は認める。同3(二)の事実は争う。

五  原告の反論

1  綿野潔関係

綿野潔に対する他の債権者が、綿野関係物件につき、原告より先順位の担保権等を有していたので、原告は、綿野に代位して左のとおり弁済をした。したがつて、代位弁済額の合計額四五九二万〇六三二円を被告主張の時価額から差引くべきである。

(ア) 株式会社但馬銀行 一一四二万〇六三二円

(イ) 株式会社阪神相互銀行 三二五〇万円

(ウ) 兵庫県 二〇〇万円

2  奥村土地関係

原告の奥村土地に対する貸付金債権の弁済期は、昭和四三年五月二〇日であつたが、奥村土地は原告に対し、右弁済期までに貸付金を支払わないときは、その履行に代え、奥村土地所有の別紙4記載の不動産(以下奥村関係物件という。)の所有権を当然に原告に移転することを約し、右契約に基づき、奥村関係物件につき原告のために所有権移転請求権仮登記(奈良地方法務局橿原出張所昭和四二年一二月一一日受付第一〇六七四号)を経由したが、奥村土地は右弁済期までに支払をしなかつた。したがつて、原告は、昭和四三年五月二一日以降奥村土地に対し何ら債権を有していない。

六  原告の反論に対する被告の認否

1  原告の反論1の事実のうち、(ワ)の支払の事実は否認し、その余の事実は知らない。

2  同2の事実のうち、別紙4(一)の不動産につき原告主張の仮登記がなされたことは認めるが、その余の事実は争う。

七  被告の再反論

1  綿野潔関係

原告は、代位弁済により綿野に対する求償権を取得するから、原告主張の代位弁済額を、綿野関係物件の時価額から差引くことはできない。

2  奥村土地関係

(一) 後記(二)の事実からすると、原告は奥村土地に対し、昭和四三年五月二一日以降も、その弁済を猶予していたものであり、本件事業年度においては、原告の奥村土地に対する貸付金債権は未だ消滅していないというべきである。

(二)(1) 原告は、奥村土地から、同社に対する貸付金及びその利息の支払のために、貸付金の弁済期日を支払期日とした同社振出の約束手形を受領し、弁済期日が到来するごとに新しく書替えた約束手形(支払期日及び手形金額を更新したもの。手形金額は、貸付元本に貸付日から弁済期日までの利息を加えたもの。)を受領していたものであり、昭和四五年一一月二五日には、支払期日同年一二月二五日、手形金額一億七〇七五万八四八〇円なる約束手形を受領した。

(2) 原告は、昭和四六年一月一三日、奥村土地との間で

〈ア〉 原告は金八二五〇万円を受領する。

〈イ〉 〈ア〉の金員を受領すると同時に、原告、奥村土地間の債権債務は消滅し、

〈ウ〉 奥村土地振出の約束手形(額面一億七〇五〇万円)を返却し、

〈エ〉 原告は、奥村土地所有にかかる奥村関係物件(ただし、別紙4(二三)の不動産を除く。)に対する奈良地方法務局橿原出張所昭和四二年一二月一一日受付第一〇六七四号の所有権移転請求権仮登記の抹消登記手続をする。

等を内容とする和解(以下第一次和解という。)をした。

(3) 原告は、右(2)〈エ〉記載の不動産につき、奈良地方法務局橿原出張所昭和四九年六月三日受付第六二四三号をもつて、同四八年二月六日売買を原因とする所有権移転登記を経由した。

八  被告の再反論に対する原告の否認

1  被告の再反論1の主張は争う。

2  同2(一)の事実は争う。同2(二)(1)の事実のうち、原告が奥村土地から同社振出の約束手形(支払期日昭和四五年一二月二五日、手形金額一億七〇七五万八四八〇円)を受領したことは認める。同2(二)(2)、(3)の事実は認める。

3  原告が、昭和四三年五月二〇日の経過をもつて奥村関係物件の所得権を取得したにもかかわらず、その本登記手続をなさずに放置していた間に、奥村関係物件につき、別紙5記載の登記がなされた。原告は、第一次和解により、右各登記の抹消に要した費用を損害賠償金として奥村土地に負担させたものであり、また約束手形(金額一億七〇七五万八四八〇円)も右損害賠償金の担保として提出させていたものである。なお、第一次和解には不備があつたので、昭和四六年三月六日に新たな和解(以下第二次和解という。)に切換えられた。

4  第一次和解及び第二次和解は、いずれも精算型代物弁済の精算手続として行われたものである。

第三証拠

一  原告

1  甲第一、第二号証、第三号証の一、二、第四号証の一ないし三、第五ないし第一八号証

2  証人綿野潔、原告代表者

3  乙号各証の成立はいずれも認める(第四号証の原本の存在も)。

二  被告

1  乙第一ないし第一二号証、第一三号証の一ないし六、第一四ないし第一六号証

2  証人平野嘉男

3  甲第一号証のうち、阪神相互銀行作成部分の成立は知らないが、その余の部分の成立は認める。第三号証の一、二、第五号証、第一〇、第一一号証、第一七、第一八号証の成立は認めるが、その余の甲号各証の成立は知らない。

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがなく、被告の主張1(一)の事実も、収入利息(綿野潔分)、貸倒損失否認(綿野潔分)、収入利息(奥村土地分)を除き、当事者間に争いがない。

二  綿野潔関係

1  収入利息

(一)  被告の主張2(一)(1)ないし(3)、(5)の事実は当事者間に争いがない。

(二)  綿野関係物件の時価額について判断する。

成立に争いのない乙第二号証、証人平野嘉男の証言、原告代表者の供述(後記採用しない部分を除く。以下同じ。)及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

(1) 綿野関係物件の地積、構造、床面積等の登記簿上の表示は、別紙3記載のとおりである(以上の事実は当事者間に争いがない。)

(2) 綿野関係物件の前所有者綿野潔は、西明石マンモスセンター(別紙3一の物件)、朝霧マンモスセンター(同二の物件)、高丸マンモスセンター(同三の物件)の名称で小売市場を経営し、右センターを多くの小売商人に賃貸し、総額二億円余の権利金を収受していた。右権利金は、預り金としての性格を有していた。

(3) 原告は、綿野関係物件を取得するにあたり、右綿野から権利金を引継いでいない。

(4) 原告は、本件事業年度の確定申告書に添付された貸借対照表において、綿野関係物件を一億六五〇〇万円として資産の部に計上しているが、権利金を貸借対照表の負債の部に計上していない(なお、原告は、綿野関係物件についての預り金として二二八万八七三二円を計上しているが、右金額が少ないことからすると、権利金を計上したものとは認められない。)。

(5) 一億六五〇〇万円との評価は、鑑定の方法などにより算定したものではなく、綿野に対する債権額、代位弁済額等から算出したものであり、原告代表者は、綿野関係物件は右一億六五〇〇万円以上の価値を有するものと評価していた。

(6) 被告部下署員平野嘉男が、原告経理担当者島繁雄に対し、綿野関係物件の権利金が貸借対照表の負債の部に計上されていない点について質問したところ、島は、旧入居者が綿野関係物件を退去しても、権利金返還請求権は次の新入居者に引継がれるもので、賃貸人である原告は関与しないから、負債の部に計上していない旨答弁した。

以上の事実を総合すると、綿野関係物件の時価は、原告が綿野関係物件に入居している小売商人らに対し権利金返還債務を負担し、右権利金相当分の金員を綿野から引継いでいない点を考慮しても、(権利金相当額を差し引いても)、一億六五〇〇万円以上であると認めるのが相当である。

(三)  したがつて、原告主張の綿野関係物件の先順位担保権者等に対する四五九二万〇六三二円の代位弁済の事実が仮に認められるとしても、綿野関係物件の時価は、前記争いのない原告の綿野に対する元利金一億〇七九七万円と右代位弁済額四五九二万〇六三二円の合計額をこえるから、原告の本件事業年度における収入利息(綿野潔分)は、四三一〇万六一六四円と認めるべきである。

2  貸倒損失の否認

(一)  被告の主張2(二)(1)の事実は、原告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

(二)  原告の綿野に対する元利金一億〇七九七万円が本件事業年度において全額弁済され、貸倒れの事実がないことは、前記1認定のとおりである。したがつて、原告が貸倒損失として損金に算入した二二一一万〇九八八円は、所得金額として当期利益金額に加算されるべきである。

3  重加算税

(一)  前記乙第二号証、成立に争いのない乙第六号証、第八号証、第一〇号証及び証人平野嘉男の証言によると、被告部下署員平野嘉男らが、原告の税務調査のために、昭和四五年八月ごろ、原告本店に臨場し、帳簿の提示を求めたが、提示された帳簿には、四二ないし四四事業年度分についても、綿野に対する貸金や収入利息の記載がなく、四二ないし四四事業年度及び本件事業年度分の確定申告書に添付された各確定決算報告書にも、綿野に対する貸金の記載や利息金の計上が全くなされていなかつたことが認められる。

(三)  右(一)の事実に、前記1(二)(5)、(6)及び2(一)認定の事実を総合すると、原告は、綿野に対する元利金一億〇七九七万円が本件事業年度において全額弁済され、何ら貸倒れの事実がないことを知りながら、本件事業年度において綿野から収受した収入利息を帳簿や確定決算報告書に記載せず、かえつて綿野に対する元利金の一部を貸倒損失として損金に算入し、それに基づいて確定申告書を提出したものであつて、事実を隠ぺい又は仮装し、それに基づき本件事業年度の法人税につき納税申告書を提出したものといわねばならない。

三  奥村土地関係

1  未収利息

(一)  被告の主張3(一)(1)、(2)(ただし、約定利息が年一割五分以上である点)の事実は当事者間に争いがない。

(二)  成立に争いのない甲第五号証、第一七号証及び原告代表者の供述によると、原告の奥村土地に対する貸付金の弁済期は、昭和四三年五月二〇日であつたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。原告は、奥村土地に対する貸付金債権の担保のために、奥村関係物件につき停止条件付代物弁済契約を締結した旨主張するけれども、成立に争いのない甲第三号証の一、二、第一一号証、及び弁論の全趣旨によると右担保は、精算型の代物弁済予約であつたものと認めるのが相当であり、かつ、左記の理由により、原告の奥村土地に対する貸付金債権は、本件事業年度においては未だ消滅していなかつたといわなければならない。すなわち、

(1) 原告は奥村土地に対し、昭和四三年五月一一日(弁済期の九日前である。)に二〇〇万円を貸付けたことは当事者間に争いがない。

(2) 成立に争いのない乙第一号証、証人平野嘉男の証言によると、原告は、奥村土地に対する貸付金債権の担保のために、奥村土地から貸付元本六七八〇万円に月六分又は三分の割合で計算した利息を加えた金額を手形金額とした奥村土地振出の約束手形を受領し、昭和四三年五月二〇日の弁済期到来後も数度にわたり、約束手形の支払期日が到来するごとに、支払期日を更新し、次の支払期日までの利息相当額を加えた額を手形金額とした新しい約束手形を受領し、その最終の約束手形は、手形金額一億七〇七五万八四八〇円、支払期日昭和四五年一二月二五日であつたことが認められる(原告が奥村土地から金額一億七〇七五万八四八〇円、支払期日昭和四五年一二月二五日の約束手形を受領したことは当事者間に争いがない。)。

(3) 原告が、昭和四六年一月一三日、奥村土地との間で、

〈ア〉 原告は、八二五〇万円を受領する。

〈イ〉 〈ア〉の金員を受領すると同時に、原告、奥村土地間の債権債務は消滅し、

〈ウ〉 原告は奥村土地振出の約束手形(金額一億七〇五〇万円)を返却し、

〈エ〉 原告は、奥村土地関係物件(ただし、別紙4(二三)の不動産を除く。)の所有権移転請求権仮登記を抹消する。

旨の和解(第一次和解)を締結し、右の物件につき、奈良地方法務局橿原出張所昭和四九年六月三日受付第六二四三号をもつて、同四八年二月六日売買を原因とする所有権移転登記を経由したことは、当事者間に争いがない。

(4) 原告代表者の供述及び弁論の全趣旨によつて成立の認められる甲第四号証の一、前記乙第二号証、第八号証、第一〇号証及び原告代表者の供述によると、原告は、四三、四四事業年度及び本件事業年度の確定決算報告書において、奥村関係物件を資産の部に計上しておらず、四六事業年度においてはじめて資産の部に計上したことが認められる。

(5) 前記乙第一号証、成立に争いのない乙第三号証及び原告代表者の供述によると、川島靖は、原告の金融業務全般を処理し、奥村土地に対する貸付業務の大部分に関与していたものであるが、本件各処分に対する審査請求の段階において、奥村土地に対する貸付金債権が消滅したことを主張しておらず、かえつて貸付金債権の存在を前提とし、利息制限法所定の利率をこえる未収利息に対する課税等を争つていたことが認められる。

(6) 右(1)ないし(5)の諸事実を総合すると、原告は奥村土地に対し、昭和四三年五月二〇日の弁済期到来後も、約束手形の書替のたびに、数度にわたり貸付金の弁済を猶予していたものであり、少なくとも本件事業年度においては原告の奥村土地に対する貸付金債権は未だ消滅していなかつたと推認するのが相当である。

(7) 原告代表者は、第一次和解〈ウ〉の手形金一億七〇五〇万円の大半は元本である、第一次和解〈ア〉の八二五〇万円の債権(以下A債権という。)の担保が第一次和解第一物件目録の土地であり、残額八八〇〇万円の債権(以下B債権という。)の担保が奥村関係物件(別紙4(二三)の不動産を除く。)である、A債権は右八二五〇万円の受領により、B債権は昭和四三年五月二〇日代物弁済により消滅しているので、第一次和解〈イ〉に債権債務は消滅すると書いた、第一次和解〈エ〉は真意ではない旨供述するけれども、前記(2)認定のとおり、原告の奥村土地に対する貸付金の元本は六七八〇万円にすぎないこと、第一次和解〈エ〉が原告の真意ではなかつたことについて、原告代表者の述べる理由は、首肯しがたいことに照らすと、前記(6)の認定に反する原告代表者の供述の一部は採用できないといわなければならない。

(8) さらに、前記甲第五号証、第一一号証、第一七号証、成立に争いのない甲第一〇号証、原告代表者の供述により真正に成立したと認められる甲第六ないし第九号証、第一二ないし第一四号証、第一六号証によると、原告は、昭和四六年三月六日、奥村土地との間に、「奥村土地は、奥村関係物件(別紙4(二三)の不動産を除く。)について設定された奈良地方法務局橿原出張所昭和四二年一二月一一日受付第一〇六七四号の所有権移転請求権仮登記上の権利が、現在も存続することを認める。」旨の和解を締結し、昭和四七年四月から同五〇年九月にかけて奥村関係物件の後順位担保権者等に代位弁済を行い、奥村関係物件につき奈良地方法務局橿原出張所昭和五〇年一〇月一七日受付第一二六〇五号をもつて右仮登記に基づく本登記を経由したことが認められるけれども、右の事実は、四六事業年度以後において奥村関係物件につき代物弁済がなされたことを推認させる事実とはなりえても、前記(6)の認定を覆すには未だ足りないといわなければならない。

(三)  したがつて、原告の奥村土地に対する貸付元本六七八〇万円に利息制限法一条一項所定の年一割五分を乗じて算出した一〇一七万円は、本件事業年度における所得金額として当期利益金額に加算されるべきである。

2  重加算税

(一)  前記乙第二号証、第八号証、第一〇号証及び証人平野嘉男の証言によると、被告部下署員平野嘉男らが、原告の税務調査のため、昭和四五年八月ころ、原告本店に臨場し、帳簿の提示を求めたが、提示された帳簿には、四三、四四及び本件事業年度において、奥村土地に対する貸金や収入利息の記載がなく、四三、四四及び本件事業年度分の確定申告書に添付された各確定決算報告書にも、奥村土地に対する貸金の記載や利息金の計上が全くなされていなかつたことが認められる。

(二)  債権担保のために精算型の代物弁済予約が締結された場合、当該債権の消滅時期がいつであるかという点については、当時、法律解釈上疑義の存するところではあつたけれども、本件は、前記1(二)認定のとおり原告において手形の書替のたびに弁済期限を猶予していたのであつて、原告の奥村土地に対する貸付金債権は存続し、利息も発生することに何ら疑問の余地はないのであるから、原告が、本件事業年度において、奥村土地に対する貸金及びその利息を帳簿に記載せず、確定決算報告書にも記載しなかつたことは、事実の隠ぺいといわざるを得ない。そして原告は右事実の隠ぺいしたところに基づき本件事業年度分の法人税につき納税申告書を提出したものである。

四  まとめ

(一)  以上認定の事実によると、原告の本件事業年度における所得金額は、八六二四万三七二六円であり、また所得金額一六二一万一四五一円をこえる部分の法人税につき、事実を隠ぺい又は仮装し、それに基づき納税申告書を提出したものといわなければならない。

(二)  そして、前記乙第二号証及び成立に争いのない乙第一二号証によると、原告は、法入税法六七条一項の適用がある同族会社であり、また本件事業年度において役員賞与の支給、利益配当等を行つておらず、本件事業年度における所得金額のうち社外流出分は源泉所得税加算税七〇〇円のみであることが認められる。したがつて、昭和四九年法律第一六号による改正前の法人税法六六条一、二項、昭和四七年法律第七七号による改正前の法人税法六七条、昭和四八年政令第九三号による改正前の法人税法施行一四〇条昭和四七年法律第一四号による改正前の租税特別措置法四二条一項、国税通則法六八条一項、同法施行令二八条一項を適用して算出すると、別紙6記載のとおり、原告の本件事業年度における法人税額は二五〇六万一四〇〇円、重加算税額は五六六万九七〇〇円となるから、本件各処分に違法はない。

五  よつて、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 荻田健治郎 裁判官 市川正已 裁判官寺崎次郎は転任につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 荻田健治郎)

別紙1

〈省略〉

別紙2

〈省略〉

別紙3

一、西明石マンモスセンター

(一) 明石市西明石南町二丁目五六一番一九

雑種地 七三七平方米

(二) 同所同番二〇

同 四五九平方米

(三) 同所同番二八二

同 一〇九平方米

(四) 同所同番地一九、同番地二〇、同番地二八二

五六一番一九、店舗兼居宅

軽量鉄骨造スレート葺二階建

一階 一、一一八・三六平方米

二階 七八七・六一平方米

二、朝霧マンモスセンター

(一) 明石市大蔵谷字清水六三四番三

宅地 三五一・七九平方米

(二) 同所同番四

同 七九三・八四平方米

(三) 同所同番地三、同番地四

六三四番四 店舗兼居宅

軽量鉄骨造スレート葺二階建

一階 七〇六・〇五平方米

二階 六七三・六五平方米

三、高丸マンモスセンター

(一) 神戸市垂水区高丸七丁目二、二五二番一、三九二

宅地 二、〇五九・〇五平方米

(二) 同所同番一、三九三

同 五三六・〇七平方米

(三) 同所同番地一、三九二、同番地一、三九三

二、二五二番一、三九二 店舗兼居宅

軽量鉄骨造スレート葺二階建

一階 一、三一一・一九平方米

二階 一、二八二・四一平方米

別紙4

(一) 橿原市南浦町参〇九番地四

一、山林 壱四八七平方メートル

(二) 同所 参壱弐番地壱

一、山林 壱八八四平方メートル

(三) 同所 参壱弐番地弐

一、山林 壱五八平方メートル

(四) 同所 参壱弐番地参

一、山林 弐四七平方メートル

(五) 同所 参壱参番地

一、山林 弐六四四平方メートル

(六) 同所 参壱四番地

一、山林 参参〇平方メートル

(七) 同所 参七弐番地

一、山林 七六〇平方メートル

(八) 同所 参七六番地

一、山林 壱参八壱平方メートル

(九) 同所 参七七番地

一、山林 七弐七平方メートル

(一〇) 同所 参七八番地

一、山林 壱九八平方メートル

(一一) 同所 参八〇番地壱

一、山林 九九壱平方メートル

(一二) 同所 参八〇番地弐

一、山林 壱四五七平方メートル

(一三) 同所 参九〇番地

一、山林 壱九壱七平方メートル

(一四) 同所 参九参番地

一、山林 弐壱九八平方メートル

(一五) 同所 参九五番地

一、山林 壱六八平方メートル

(一六) 同所 参九八番地

一、山林 五六五平方メートル

(一七) 同所 参九九番地

一、山林 参壱〇平方メートル

(一八) 同所 四〇五番地

一、山林 弐参九六平方メートル

(一九) 同所 九六壱番地

一、山林 参六平方メートル

(二〇) 同所 九六三番地

一、山林 壱〇弐平方メートル

(二一) 同所 九六四番地

一、山林 壱参弐平方メートル

(二二) 同所 九六八番地

一、山林 五弐平方メートル

(二三) 橿原市戒外町六〇番地

一、ため池 四九平方メートル

外提敷 四弐平方メートル

(二四) 同所 六壱番地

一、山林 壱四八平方メートル

(二五) 同所 六弐番地

一、山林 弐弐壱平方メートル

(二六) 同所 六四番地壱

一、山林 参〇〇平方メートル

(二七) 同所 六四番地弐

一、山林 参〇四平方メートル

(二八) 同所 六五番地

一、山林 八八五平方メートル

(二九) 同所 六六番地壱

一、山林 壱参八八平方メートル

(三〇) 同所 六六番地弐

一、山林 壱〇九〇平方メートル

(三一) 同所 壱〇五番地、壱〇六番地

一、山林 四壱九平方メートル

(三二) 同所 壱〇七番地

一、山林 弐弐八平方メートル

(三三) 同所 壱〇八番地

一、山林 弐六七平方メートル

(三四) 同所 壱〇九番地

一、山林 弐弐八平方メートル

(三五) 同所 壱壱〇番地

一、山林 七八〇平方メートル

(三六) 同所 壱壱参番地壱

一、山林 四弐六四平方メートル

(三七) 同所 壱壱参番地参

一、山林 壱四五平方メートル

(三八) 同所 壱壱参番地四

一、山林 参七〇平方メートル

(三九) 同所 壱壱四番地壱

一、山林 壱壱九〇平方メートル

(四〇) 同所 壱壱四番地弐

一、山林 五六壱平方メートル

(四一) 同所 壱壱五番地壱

一、山林 弐壱六壱平方メートル

別紙5

一(1) 所有権移転請求権仮登記

受付番号 奈良地方法務局橿原出張所昭和四三年四月一七日受付第三五六九号

原因 昭和四三年三月一五日代物弁済予約

権利者 香久山農業協同組合

(2) 根抵当権設定登記

受付番号 同出張所同日受付第三五六八号

原因 昭和四三年三月一五日農協取引契約についての同日設定契約

根抵当権者 香久山農業協同組合

二(1) 所有権移転請求権仮登記

受付番号 同出張所昭和四四年七月一日受付第六六三三号

原因 昭和四四年六月二七日代物弁済予約

権利者 東大阪信用金庫

(2) 抵当権設定登記

受付番号 同出張所同日受付第六六三二号

原因 昭和四四年六月二七日金銭消費貸借の同日設定契約

抵当権者 東大阪信用金庫

三 一(2)の根抵当権一部移転付記登記

受付番号 同出張所昭和四六年三月二五日受付第三七八三号

原因 昭和四六年三月一〇日確定債権一部代位弁済

根抵当権者 岸上惣一郎

四 仮差押登記

受付番号 同出張所昭和四六年四月二四日受付第五三四一号

原因 昭和四六年四月二三日奈良地方裁判所葛城支部仮差押

債権者 浅野彦三郎

五 賃借権設定登記

受付番号 同出張所昭和四五年一一月三〇日受付第一四一三一号

原因 昭和四五年一一月二四日設定契約

賃借権者 準学校法人大阪経理経済学園

以上

別紙6

法人税額及び重加算税額計算表

〈省略〉

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